第27回 我が心の芸工大~ザ?バンドの巻|かんがえるジュークボックス/亀山博之

コラム 2025.02.26|

卒展でかんがえる

 2月6日から11日までの間、本学の「卒展」が開催された。この春、卒業する学生の全身全霊を込めた作品が集まって、降り積もった大雪も溶けそうなくらいの熱量を感じた。シラけていては芸術は生まれない。芸術がシラけていたとしたら、それは芸術ではない。芸術はやっぱり爆発だな!と、わたしは独りで盛り上がりながら、すべての卒業制作品を鑑賞して回った。うんうん、情熱のこもった活動は胸を打つものだ。

卒展の光景
卒展の光景
卒展の光景
卒展の光景

卒展の光景

 あの絵画もあの版画も購入して自分の部屋に飾りたいなあ、と悩み続けていたら、あの絵画もあの版画もみんな売約済みになっていた…。決断は早いほうがいい。

はなむけ

 さて、今回は卒業する学生への「はなむけ」になるような1曲は???とかんがえて、ザ?バンド(The Band)による「我が心のジョージア(Georgia on My Mind)」をレコード棚から選んできた。ホーギー?カーマイケルの作曲で、1930年の録音がもっとも古いものとして残っているそうな。ちなみにザ?ビートルズのジョージ?ハリスンは、ホーギー?カーマイケルのファンだと公言している。「我が心のジョージア」といえば、レイ?チャールズの1960年に発表した歌が有名だけど、今回取りあげるザ?バンドの1977年のバージョンもグッとくる。歌唱にも演奏にも情熱が込められている。

ザ?バンド「我が心のジョージア」日本盤
ザ?バンド「我が心のジョージア」日本盤

 ザ?バンドのメンバーのみなさん、演奏も佇まいもなにもかも、若いうちからとても老成されていらっしゃる。大人の音楽集団だ。憧れの的だ。彼らの1968年のデビュー?アルバム『ミュージック?フロム?ビッグ?ピンク(Music from Big Pink)』を初めて聴いたときには腰を抜かしたものだ、あまりに渋くって。それはわたしの中学2年のときからの愛聴盤だ。こんな感じの渋い大人になりたいなあと、馬見ヶ崎川の河川敷に座って、ダビングしたカセットをウォークマンでよく聴いていた。

 ザ?バンドの音楽には物語がある。詩を通して時間の経過を感じさせるし、奏でる音に時間の重みがある。そんなザ?バンドが「我が心のジョージア」を歌うのだから、芸工大を巣立って大人として生きていくみなさんにふさわしい一曲と言ってよいだろう。
 アメリカの南部ジョージア州のことを想う歌なのか、ジョージアという名前の女性のことを想う歌なのか、どう受け取るかはあなた次第。とにかく、時の流れを感じながら聴いていただきたい。

 Georgia, Georgia, the whole day through
 ジョージア、ジョージア、1日中
 There’s that old sweet song that keeps you,
 懐かしくて優しいあの歌を聴けば
 Georgia on my mind
 わたしの心にはジョージアがいる

 Oh Georgia, Georgia, the song of you
 ジョージア、ジョージア、あなたの歌
 Comes as sweet and clear just like moonlight
 甘く澄んで、まるで松の木の間から輝く月の光のように
 through the pines
 聞こえてくる

 Other arms reach out for me
 他のひとの腕がわたしを抱こうとしても
 And other eyes have smiles tenderly
 他のひとの目が優しく微笑もうとも
 But still in peaceful dreams I see
 穏やかな夢のなかで今も見るのは
 That the road, the road leads back to you
 あなたのもとへと帰る道、あの道

 Oh hey Georgia, Georgia, no peace, no peace
 ねえ、ジョージア、ジョージア、安らぎは、安らぎは
 I find
 見つからない
 And there’s still this old sweet song that keeps you,
 懐かしくて優しいあの歌を聴けば今も
 Georgia on my mind
 わたしの心にはジョージアがいる

 There’s that old sweet song that keeps you,
 懐かしくて優しいあの歌を聴けば
 Georgia, on my mind
 わたしの心にジョージアがいる
 That keeps you, Georgia, on my mind
 わたしの心にジョージアがいる

 これまであったいろいろな出来事を思い出させてくれるような、沁みる曲である。長かった足球彩票もいざ終わってしまうと、一瞬の出来事のように思えるもの。
 卒業するみなさん、何年か経って機会があったら、ぜひ大学を訪れてみて欲しい。かつて毎日通った大学に戻ってみても、きっとあの頃とまったく同じ感覚に戻ることはできなくなっていることでしょう。それは、卒業後、さらにみなさんが成長するから。子どもの頃に過ごした家に大人になってから戻っても、あの頃とまったく同じには戻れない、というようなことを言ったのは1940年の『汝再び故郷に帰れず(You Can’t Go Home Again) 』のトマス?ウルフ(Thomas Wolfe)だ。建物は同じままでも、人間は変わるのだ。しかし、それはいいことなのだ。成長は変化だ。変化しないのは退化も同然である。このたび卒業するみなさん、みなさんの成長を自覚しに、いつかまた大学に顔を出してください。卒業おめでとうございます。

追悼 ガース?ハドソン

 今回、ザ?バンドの曲を選んだのは、「はなむけ」というテーマを求めたことにくわえて、先月、ザ?バンドのなかで生存していた最後のメンバーであるガース?ハドソン(Garth Hudson)が亡くなったということもある。

CD『ガースの世界』
CD『ガースの世界』

 2001年のアルバム『ガースの世界(The Sea to the North)』はジャケットの絵画もステキな1枚。CDしか出ていないのだが、アナログ盤が出ているなら部屋にぜひ飾りたい1枚である。このアルバムの中で、わたしは”Little Island”がお気に入り。

 芸術は死なず!というわけで、次の1曲までごきげんよう。
 Love and Mercy

(文?写真:亀山博之)

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亀山博之(かめやま?ひろゆき)
亀山博之(かめやま?ひろゆき)

1979年山形県生まれ。東北大学国際文化研究科博士課程後期単位取得満期退学。修士(国際文化)。専門は英語教育、19世紀アメリカ文学およびアメリカ文学思想史。

著書に『Companion to English Communication』(2021年)ほか、論文に「エマソンとヒッピーとの共振点―反権威主義と信仰」『ヒッピー世代の先覚者たち』(中山悟視編、2019年)、「『自然』と『人間』へのエマソンの対位法的視点についての考察」(2023年)など。日本ソロー学会第1回新人賞受賞(2021年)。

趣味はピアノ、ジョギング、レコード収集。尊敬する人はJ.S.バッハ。