
卒展でかんがえる
2月6日から11日までの間、本学の「卒展」が開催された。この春、卒業する学生の全身全霊を込めた作品が集まって、降り積もった大雪も溶けそうなくらいの熱量を感じた。シラけていては芸術は生まれない。芸術がシラけていたとしたら、それは芸術ではない。芸術はやっぱり爆発だな!と、わたしは独りで盛り上がりながら、すべての卒業制作品を鑑賞して回った。うんうん、情熱のこもった活動は胸を打つものだ。




あの絵画もあの版画も購入して自分の部屋に飾りたいなあ、と悩み続けていたら、あの絵画もあの版画もみんな売約済みになっていた…。決断は早いほうがいい。
はなむけ
さて、今回は卒業する学生への「はなむけ」になるような1曲は???とかんがえて、ザ?バンド(The Band)による「我が心のジョージア(Georgia on My Mind)」をレコード棚から選んできた。ホーギー?カーマイケルの作曲で、1930年の録音がもっとも古いものとして残っているそうな。ちなみにザ?ビートルズのジョージ?ハリスンは、ホーギー?カーマイケルのファンだと公言している。「我が心のジョージア」といえば、レイ?チャールズの1960年に発表した歌が有名だけど、今回取りあげるザ?バンドの1977年のバージョンもグッとくる。歌唱にも演奏にも情熱が込められている。

ザ?バンドのメンバーのみなさん、演奏も佇まいもなにもかも、若いうちからとても老成されていらっしゃる。大人の音楽集団だ。憧れの的だ。彼らの1968年のデビュー?アルバム『ミュージック?フロム?ビッグ?ピンク(Music from Big Pink)』を初めて聴いたときには腰を抜かしたものだ、あまりに渋くって。それはわたしの中学2年のときからの愛聴盤だ。こんな感じの渋い大人になりたいなあと、馬見ヶ崎川の河川敷に座って、ダビングしたカセットをウォークマンでよく聴いていた。
ザ?バンドの音楽には物語がある。詩を通して時間の経過を感じさせるし、奏でる音に時間の重みがある。そんなザ?バンドが「我が心のジョージア」を歌うのだから、芸工大を巣立って大人として生きていくみなさんにふさわしい一曲と言ってよいだろう。
アメリカの南部ジョージア州のことを想う歌なのか、ジョージアという名前の女性のことを想う歌なのか、どう受け取るかはあなた次第。とにかく、時の流れを感じながら聴いていただきたい。
Georgia, Georgia, the whole day through
ジョージア、ジョージア、1日中
There’s that old sweet song that keeps you,
懐かしくて優しいあの歌を聴けば
Georgia on my mind
わたしの心にはジョージアがいる
Oh Georgia, Georgia, the song of you
ジョージア、ジョージア、あなたの歌
Comes as sweet and clear just like moonlight
甘く澄んで、まるで松の木の間から輝く月の光のように
through the pines
聞こえてくる
Other arms reach out for me
他のひとの腕がわたしを抱こうとしても
And other eyes have smiles tenderly
他のひとの目が優しく微笑もうとも
But still in peaceful dreams I see
穏やかな夢のなかで今も見るのは
That the road, the road leads back to you
あなたのもとへと帰る道、あの道
Oh hey Georgia, Georgia, no peace, no peace
ねえ、ジョージア、ジョージア、安らぎは、安らぎは
I find
見つからない
And there’s still this old sweet song that keeps you,
懐かしくて優しいあの歌を聴けば今も
Georgia on my mind
わたしの心にはジョージアがいる
There’s that old sweet song that keeps you,
懐かしくて優しいあの歌を聴けば
Georgia, on my mind
わたしの心にジョージアがいる
That keeps you, Georgia, on my mind
わたしの心にジョージアがいる
これまであったいろいろな出来事を思い出させてくれるような、沁みる曲である。長かった足球彩票もいざ終わってしまうと、一瞬の出来事のように思えるもの。
卒業するみなさん、何年か経って機会があったら、ぜひ大学を訪れてみて欲しい。かつて毎日通った大学に戻ってみても、きっとあの頃とまったく同じ感覚に戻ることはできなくなっていることでしょう。それは、卒業後、さらにみなさんが成長するから。子どもの頃に過ごした家に大人になってから戻っても、あの頃とまったく同じには戻れない、というようなことを言ったのは1940年の『汝再び故郷に帰れず(You Can’t Go Home Again) 』のトマス?ウルフ(Thomas Wolfe)だ。建物は同じままでも、人間は変わるのだ。しかし、それはいいことなのだ。成長は変化だ。変化しないのは退化も同然である。このたび卒業するみなさん、みなさんの成長を自覚しに、いつかまた大学に顔を出してください。卒業おめでとうございます。
追悼 ガース?ハドソン
今回、ザ?バンドの曲を選んだのは、「はなむけ」というテーマを求めたことにくわえて、先月、ザ?バンドのなかで生存していた最後のメンバーであるガース?ハドソン(Garth Hudson)が亡くなったということもある。

2001年のアルバム『ガースの世界(The Sea to the North)』はジャケットの絵画もステキな1枚。CDしか出ていないのだが、アナログ盤が出ているなら部屋にぜひ飾りたい1枚である。このアルバムの中で、わたしは”Little Island”がお気に入り。
芸術は死なず!というわけで、次の1曲までごきげんよう。
Love and Mercy
(文?写真:亀山博之)
BACK NUMBER:
第1回 わたしたちは輝き続ける~ジョンとヨーコの巻
第2回 バス停と最新恋愛事情~ザ?ホリーズの巻
第3回 孤独と神と五月病~ギルバート?オサリバンの巻
第4回 イノセンスを取り戻せ!~ザ?バーズの巻
第5回 スィート?マリィは不滅の友~フレイミン?グルーヴィーズの巻
第6回 ツンデレな愛をかんがえる~ザ?ビートルズの巻
第7回(芸工祭直前edition) ゲットしに来て!~バッドフィンガーの巻
第8回(芸工祭報告edition) 浦島と美女をめぐる仮定法~ブレッドの巻
第9回 夢見る人~ニッキー?ホプキンスの巻
第10回 脱構築 DE ビートルズ~ザ?ビートルズ?その2の巻
第11回 年末年始はファンキーに!~イーグルスの巻
第12回 自転車でいこう~クイーンの巻
第13回 卒業の先に~サイモン&ガーファンクルの巻
第14回 船出のとき~ロッド?スチュワートの巻
第15回 恋の縦横無尽~クリストファー?クロスの巻
第16回 田舎へ行こう~キャンド?ヒートの巻
第17回 ハンバーグ?ランチはいかが?~プロコル?ハルムの巻
第18回 宇宙からのメッセージ~デヴィッド?ボウイの巻
第19回 体の知れない電波を操れ!~レッド?ツェッペリンの巻
第20回<臨時増刊号> 西洋と東洋の出会い~ジョン?レノンの巻
第21回<芸工祭直前号> 物質世界を越えてゆく~ロニー?スペクターの巻
第22回 9月のあの日~アース?ウィンド&ファイアーの巻
第23回 アメリカの味~ドン?マクリーンの巻
第24回 素顔のノーマ、素顔のダイアナ~エルトン?ジョンの巻
第25回 ダビデとタイプライター~レナード?コーエンの巻
第26回 猫年の女~アル?スチュワートの巻

亀山博之(かめやま?ひろゆき)
1979年山形県生まれ。東北大学国際文化研究科博士課程後期単位取得満期退学。修士(国際文化)。専門は英語教育、19世紀アメリカ文学およびアメリカ文学思想史。
著書に『Companion to English Communication』(2021年)ほか、論文に「エマソンとヒッピーとの共振点―反権威主義と信仰」『ヒッピー世代の先覚者たち』(中山悟視編、2019年)、「『自然』と『人間』へのエマソンの対位法的視点についての考察」(2023年)など。日本ソロー学会第1回新人賞受賞(2021年)。
趣味はピアノ、ジョギング、レコード収集。尊敬する人はJ.S.バッハ。
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