経験した先輩が語る、東京3展覧会のリアルな学びと発見/和田竜汰(大学院修士課程2年)×菊地那奈(大学院修士課程2年)×坂本絢佳(美術科彫刻コース卒業生)×深井聡一郎(芸術学部教授/大学院芸術工学研究科長 )

インタビュー 2025.02.07|

インタビューの様子

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4年間の集大成を都内で展示「卒業?修了制作展[東京選抜]」

――卒業?修了制作展[東京選抜](以下、「東京展」)はどんな展覧会でしょうか?

深井:2月の上旬に学内で大学全体の卒業制作展が行った後、下旬に美術科と大学院の卒業?修了制作から選抜した作品を東京で展示するのが「東京展」です。東京都美術館(上野)で開催しており、なかなか山形まで来ることのできない方もいるので、そういった方にはぜひ見ていただきたいですね。同時期に国立新美術館で「東京五美術大学連合卒業?修了制作展(以下、五美大展)」も開催されているので、学生にとっては4年間の学びを比較することができる機会でもあります。

東京卒展の様子

――2022年度の「東京展」経験者の和田さんにお聞きします。まず、卒業制作はどのような作品でしたか?

東京卒展の様子

和田:自分の出自的なものを描こうと思っていたので、家族(祖母、母、そして生まれてこなかった姉)をモチーフに作品を制作しました。祖母と母は制作当時の写真に加え、過去に彼女らを撮影したものをデジタル上でコラージュしました。対して姉は私自身のポートレートをAIで女性化させ、そこに両親の若い頃の写真をコラージュしています。制作のために北海道の実家へ取材に行って、その後山形に戻って制作して、もう一度実家に戻って完成、という感じでした。

東京卒展3展

深井:当時はとても忙しそうだったよね?

和田:寝不足で(笑)。一番痩せていた時期かもしれないです。周りからも「大丈夫?」と心配されましたが、みんなから支えてもらって何とか乗り切りました。

――「東京展」に参加した感想も教えてください。

和田:まず率直に、選ばれたことが嬉しかったです。作家を目指す身としては、山形だけじゃなく、都心でも見てもらいたい、という気持ちが強かったので。 実際に展示をしてみると、山形での展示に比べて、「東京展」では自分の作品の印象が全く違って見えました。天井の高さや照明、展示空間の広がりとか。見せる時のスケール感が違うんです。自分の作品をこんな風に見せることができるんだ、という発見が得られた気がします。

東京卒展3展
東京展での展示風景

深井:学内で行う展示は、作品を「いままで学んできた山形の環境」で見せることを大事な要素だと考えています。ただ、美術館と比べればできることは限られてしまいますから、しっかりと照明を当てて、贅沢な空間で作品を見せることのできる東京展は山形の学内展示とは違う経験が得られますね。

――手ごたえを感じる瞬間はありましたか?

和田:東京都美術館は展示内での連絡先交換が許可されているので、美術関係者の何人かの方から声を掛けてもらい、人脈をつくることができました。2~3か所のギャラリーからグループ展の誘いがあり、参加することができました。あとは展示を見てくれた人がSNSで拡散してくれたり、多くの人に知ってもらえる機会が増えたことも嬉しいです。

東京卒展3展
東京展の様子
東京卒展3展
東京卒展3展

――和田さんのように「東京展」で声を掛けられて次につながる学生は多いですか?

深井:いると思います。ただ、いい話ももちろんありますけど、あまり条件が良くなかったり目的が怪しい場合もあるので、その点は学生たちに注意喚起していますね。知らないギャラリーだったら先生に聞いてみて、と。そういった見極めができるかも作家活動を続けていくなら大事です。

――和田さんの今後の活動や目標を聞かせてください。

和田:今年度で大学院を修了するので、修了制作で東京展にも参加する予定なんです。箔という素材を使うのは同じですが、やっていることが難しく複雑になってきているので、もっとわかりやすく伝えられる展示ができればいいなと考えています。

――それは楽しみですね。和田さんの作品にまた多くの人が刺激を受けそうです。

東京卒展3展

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プロの仕事から学び、成長できる「DOUBLE ANNUAL」

――菊地さんは2023年度の「DOUBLE ANNUAL(ダブルアニュアル:以下、DA)」に参加されました。まず応募したきっかけを教えてください。

菊地:「DA」は、姉妹校の京都芸術大学と合同で行われる選抜展で、全学部生?院生が応募できます。2022年度が第1回目だったのですが、この年に私の同級生たちが「DA」ですごく頑張っている姿を目の当たりにして。展示内容もですが、結構長い時間をかけてキュレーターの方と一緒になって作り上げていくところが、とても価値があるものだなと感じました。

東京卒展3展
菊地那奈さん(大学院修士課程2年)
東京卒展3展
菊地さんがDAで展示した作品 「私たちの民話」現代の何気ない日々の暮らしにまつわるエピソードを聞き取り、それらを長い時間をかけて語り継がれる民話のような形式で「現代の民話」としてまとめた作品。乾漆技法により作られた立体物には、その地域に根ざす語り部が、静かに現代の民話を語る姿が投影される。(写真:新国立美術館で開催された、DOUBLE ANNUAL2024の様子)

――「DA」は選抜後も、制作指導を受けながら作品を完成させると聞きました。実際はどのように進んでいったのですか?

菊地:夏前がキックオフで、そこから毎月ミーティングがあります。リモートだったり、対面だったり、いろいろなのですが、プロのキュレーター*の方からすごく貴重な意見をいただきながら作っていきました。アウトプットの仕方やどういう展示をしていくかなど、たくさんアドバイスをいただいて。主本の部分は変わらないですけど、制作プランは最初からだいぶ変わりましたね。

*2023年度のキュレーターは服部浩之氏(東北芸術工科大学担当)と、金澤韻氏(京都芸術大学担当)、監修は片岡真実氏(森美術館館長)

深井:例えば「今の状態だと見る人には伝わらないから、こういう風にした方がいいんじゃないか」とか、「他の方法をひねり出せないか」とか。ディスカッションを繰り返します。最終的に展示を行う新国立美術館の展示スペースはとても広いので、経験がないとイメージするのが難しいですからね。

東京卒展3展
担当キュレーターとのミーティングの様子

菊地:私の作品は民話をモチーフにしていたのですが、キュレーターの先生から「大丈夫?」といつも心配されていました(笑)。結構ギリギリまでリサーチしながら作っていたので。

深井:本当に最後まで粘っていたよね。どんな民具がふさわしいか、どうやって映像を漆の作品に映し出すべきか、とか。たくさん話し合いをしました。

菊地:インストーラー(展示設営業者)さんが参加してくれたのも大きかったです。

深井:自分で設置する時と違って、客観的な目線でとてもいい位置に設置してくれる。あとライティングがプロ。多くを言わなくても、ベストな位置に持ってきてくれる。こういう経験を学生のうちに経験できるのは本当に贅沢だなと思います。期間中は同じ新国立美術館で「五美大展」も開催されていますが、「DA」の展示はしっかりとしたキュレーションが入っているので、併せて見ると他の展示とは違った見応えがあります。

東京卒展3展
DA設営中の様子

菊地:本当にいい経験になります。7月から2月までの期間、長いようで短いんですけど、これだけの大作を自分が作れるんだ、という自信を持てるようになりました。キュレーターの方もですが、芸工大でも学科を超えて先生方が協力してくれました。私の場合、取材した話から「民話を作る」必要があったので、文芸学科の先生に相談しながら進めていきました。普段は関わることのない先生からも専門的に指導していただけるのは貴重な経験だし、自分の世界もすごく広がります。

――京都芸術大学の学生さんとはどんな交流がありましたか?

菊地:展示期間の時に初めて会う人がほとんどでしたが、すごく仲良くなりました。連絡先を交換したりとか。

深井:最後にだけ会うのはもったいない、という反省を踏まえて、今年度(2024年度)は夏合宿を行いました。DAの監修を森美術館の片岡館長が務めていることもあり、森美術館のシアスター?ゲイツ展に行き、片岡館長の解説を聞きながら本人のパフォーマンスを見せてもらったり。DAの会場となる新国立美術館のバックヤードを見学したりしましたね。京都の学生と事前に交流できると同時に、自分たちがどういう場所で展示するのか把握できるので、大変有意義だったと思います。

東京3展紹介2024
新たに実施された夏合宿の様子
東京3展紹介2024

――京都の学生の作品と山形の学生の作品にはどんな違いがありますか?

菊地:東北の土地の力というか、地域に関連した作品は山形の方が多いなと感じました。

――2024年度の「DA」も楽しみですね。

深井:2025年度は第3回目ということで、キュレーター陣が一新され、慶野結香氏(東北芸術工科大学担当)、堤卓也氏(京都芸術大学担当)に変わりました。夏合宿も行いましたし、新しい体制のもと、また新たな才能が生まれてくるなと感じています。

東京卒展3展

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卒業生がチャンスを掴む展覧会「ART-LINKS」

――坂本さんは「TUAD ART-LINKS」(以下、「ART-LINKS」)の経験者ということでお話を伺いたいのですが、現在は卒業されてどんなことをしていますか。

坂本:今は縁あって本学の事務局嘱託職員(彫刻コースの担当副手)として働いていますが、2017年に卒業してからは一般企業に就職して、制作を続けていました。どういった形になっても、ずっと制作を続けようと決めていて。先輩からは「制作場所を見つけることが重要だよ」と聞いていたので、まずは自分のアトリエを作ることから始めました。

東京卒展3展
坂本絢佳さん(美術科彫刻コース卒業生)

坂本:いろんな人のつてをたどって、農家の方から場所をお借りすることができました。お借りした場所には古い小屋があったのですが、私は石彫をしているので粉がたくさん出てしまうんですね。壁の隙間から粉がどんどん外に出て行ってしまう。そこで、農家さんにも手伝ってもらいながら小屋を解体してビニールハウスを建てました。

東京卒展3展
坂本さんの作品
東京卒展3展
坂本さんが制作をしているビニールハウスの様子

坂本:ビニールハウスが積雪に耐えられるように、骨組みには太めのパイプを使用しています。重い石を持ち上げたり移動させることができるように、ハンドリフター(昇降式台車)や、三又?チェーンブロックなどの道具を少しずつ揃えました。白いビニールを張っているので昼間は自然光で作品を見ることができますし、夏は暑く冬は寒い厳しい環境ですが、紅葉や動物の足跡に感動したり、見たことない虫と遭遇したりと、大自然の中で制作することに楽しさを感じています。

――そんな中「ART-LINKS」に応募したきっかけは?

坂本:展示の機会がないと自分のペースで制作を進めてしまうので、なかなか1つの作品が完成しないんです。これではダメだなと、思い切ってエントリーしました。ポートフォリオを提出したのが7月で、選考結果の通知がきたのが8月頃です。

深井:「ART-LINKS」は卒業後も制作を続けている人たちを対象とした展覧会です。選考を通過した作家は、都内のギャラリー*の協力を得て作品を展示?販売します。

*2024年度の「TUAD ART-LINKS 2025」は、新宿髙島屋、B-gallery、REIJINSHA GALLERY、ORIE ART GALLERY、ゆう画廊の5会場で、12名の作家の作品を展示

東京3展紹介2024
「TUAD ART-LINKS 2024」の会場の様子
東京3展紹介2024

深井:どのギャラリーに展示するかで、選ばれる作品も変わってきます。坂本さんはORIE ART GALLERY(オリエアート?ギャラリー)での展示作家として選ばれました。病院やホテルなど公共性の高い施設に作品を展示するのが得意な画廊で、パブリックに向いているアーティストをたくさん抱えている。確か坂本さんの作品も、展示が終わった後、1点預かりになったんだよね?

坂本:はい。その後も夏頃に連絡が来て、追加で「ART-LINKS」に展示していた2作品を送ってほしいと言われました。それらの作品は今、一般企業さんのところで展示されています。

東京卒展3展
坂本さんが展示したORIE ART GALLERYの様子

坂本:自分でもちょっとくすぶっている期間が長かったなと思っていたので、こうやって次に繋がる機会を頂けたことが嬉しかったです。そういう意味でもこの「ART-LINKS」の存在はありがたいなと思います。

深井:「ART-LINKS」はどうやって作家活動を続けていけばよいか分からないとか、頑張っているけどもうちょっと自分を美術界に知らしめたい、と思っている卒業生を後押しする企画です。画廊の皆様もそれを理解してくださっていて、お客さんとの接し方や搬入の仕方など、美術界の常識や不足している知識なども教えてくれています。

――在校生だけではなく、卒業生のフォローもしっかりしているんですね。

深井:ART-LINKSは今年(2025年)で10年目になります。10回目となる今回をもって現在のかたちでの実施は一つの区切りとし、また形を変えて、新しい支援を続けていきたいなと考えていますね。

東京卒展3展

――今年度の展覧会も楽しみですね。皆さんありがとうございました。

東京卒展3展

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「東京展」「DOUBLE ANNUAL」「ART-LINKS」では、作品を完成させるまでの道のりで得た経験、都内で勝負できる醍醐味など、参加した先輩たちに多くの学びや気づきをもたらしていることがわかりました。鑑賞者にとっては、芸工大生の選りすぐりの作品を一気に見ることができる、年に一度の機会です。みなさんも、アートとは何か、作家とは何か、東京3展覧会を巡ってともに考えてみませんか。

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3つの展覧会は同期間に開催!

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(取材:藤庄印刷株式会社 新関 真紀)

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東北芸術工科大学 広報担当
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