自分の作品で、人と人との関係性や場を築いていける喜び/アーティスト?卒業生 大平由香理

インタビュー

アーティストとして活躍する、芸術文化専攻 日本画研究領域 修了生の大平由香理(おおひら?ゆかり)さん。その注目度は高く、展示歴や受賞歴が多数ある他、2024年には吉野石膏美術振興財団「足球彩票4年度 若手美術家の在外研修に対する助成採択者」の一人として渡米。帰国後は地元?岐阜県を拠点に全国各地で展覧会を行うなど、精力的に活動を続けています。そんな大平さんに、現在の制作スタイルやアーティストとして生きていくことの覚悟についてお話を伺いました。

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「私」から、「私たち」の作品へ

――はじめに大平さんの現在の活動内容について教えてください

大平:絵を描いているんですけど、主に展覧会を企画していただいて、そこで作品を展示しています。自分のアトリエもありますし、呼ばれて行って現地で作品を作る 場合もあります。

また2024年はアメリカの美術館に呼んでいただいて、向こうで制作してきました。私がいた場所にはアメリカだけじゃなく世界中からいろんなジャンルのアーティストが来ていて、それぞれみんな国の代表みたいな感じでした。

20代から70代までさまざまな世代の人がいて、共通のアートという話題でコミュニケーションができるんだ、伝わるんだっていうのは、自分の中である意味自信になりました。

画家、アーティスト 大平由香理さん
お話をお聞きした大平由香理さん。

大平:大学時代から自然、山を描き始めて、ずっと日本の北の山の方を描いてきたので、漠然と南の海の方にも行ってみたいなという思いがあって。そんな時に、別府のアートNPOが出している冊子を大学で見てイメージが広がっていきました。また別府は、地域とアートによるまちづくりに力を入れている場所だということも分かり、それで興味を持って行くことにしたんです。

そしたら私が山形に行ったことで山を描くようになったのと同じように、九州に行ったら海を描くようになりましたね。山の形も東北は三角形なのに対し、九州はわりとなだらかで、そういった風景の違いを感じることができました。

※「清島アパート」は大分県別府市にある戦後すぐに建てられた元下宿アパートで、現在、NPO法人BEPPU PROJECTがアーティストの活動支援の一環として運営している。

――近年は各地でワークショップを行う機会も多いと聞きました

大平:最近はただワークショップをして終わるのではなく、それを自分の作品に取り込むような活動をしています。いろんな場所に行って、そこにいる人と関わりながら一緒に一つの作品をつくっていくという。

以前は、制作は制作、ワークショップはワークショップと分けて考えていたんですが、その二つを融合できないかな?と考え始めたのを機に、ここ5~6年はワークショップを通して、参加者の人に作品の一部となるパーツをつくってもらい、それを私の方で組み合わせるような形で作品に仕上げています。

やっぱり他の人に参加してもらうと自分にはない形とか色とかが出てきて、思ってもみなかったような画面ができていくところに発見があるんですよね。全部自分で描けば100%自分の画面になりますが、自分以外の人に参加してもらえばしてもらうほど、自分の想像や予測を超える作品が出来上がります。
あとは何より参加してくれた人に“自分の作品”だと思ってもらいたくて。きっと作品をつくりたいというより、場をつくりたいんでしょうね。

絵を描くってすごく内向的というか、私自身ずっと一人で描いてきたし、一人でも完結できるものだからこそ、絵を描くことを手段?方法の一つとして他人とつながったり社会と関わったりできないかな、と考えたことが今のスタイルのきっかけになっていると思います。また、普段は絵に興味がなくて作品を素通りしてしまうような方でも、「ワークショップで一緒につくったものが作品になって展示されますよ」と伝えると足を運んでくれるきっかけになったりします。
これまでさまざまな場所で作品発表やワークショップなどをしてきて、アートの手が届きにくいところやアクセスしずらい場所や人にこそ、私はアートが必要だと思っているので、何かきっかけを作ることができれば、という想いもあり、このような制作、活動を続けています。

画家、アーティスト 大平由香理さん

――共同制作から生まれる偶然性みたいなものも含めて、楽しんでいらっしゃるように見えます

大平:でもたまに「こういうのが来たか~」みたいなものもあったりするんですよ(笑)。それでも、それをどのように配置して一つの作品として見せられるかは、自分の力量というか作家性に関わってくるので、他者を巻き込んで制作している以上、作品に引き上げて絶対的なクオリティを維持するという責任は持ってやっています。

あと、調子が悪い時でも必ず100点を出すっていうのもすごく大切にしています。やっぱり波があると仕事って続かなくなっちゃうので、どんなに忙しくても、あんまり気持ちが乗らなくても、それは作品を観る人には関係のないことなので、いつも一定のクオリティのあるものは必ず出し続けるっていうのは大切にしています。

――いろいろ活動されてきた中で、特に印象に残っているプロジェクトは?

画家、アーティスト 大平由香理さん
自身の母校である瑞穂市立牛牧小学校の子どもたちと交流しながら、共同制作する大平さん。
画家、アーティスト 大平由香理さん
画家、アーティスト 大平由香理さん
画家、アーティスト 大平由香理さん

大平さんの出身地である岐阜県瑞穂市の市制20周年を記念して制作された作品。ココロかさなるCCNセンター(瑞穂市)に展示されている。

好きなことを仕事にするという覚悟

――芸工大に進学しようと思ったきっかけを教えてください

大平:私が通っていたのはみんなが美大に進学するような美術科のある高校だったんですけど、そこで先生に勧められて興味を持ったのが芸工大の日本画コースでした。写実的な作品を描いている人もいれば独創的な作品もあって、その幅の広さが私に合っているんじゃないか、と。関東の美大も合格してはいたんですけど、芸工大の日本画と洋画の東京選抜展を観に行ったら面白い作品がたくさんあって、ぜひ芸工大で学びたいと思いました。

――日本画コースで得た知識や経験は今も活きていますか?

大平:すべてが役に立っていると思います。画材の使い方とか下地の作り方、制作における考え方はもちろんですが、展覧会の作品紹介などで文章を書く機会が結構あって、大学時代に添削してもらった経験が、今まさに役立っています。
大学院レビューでは、作品を前に自分の研究テーマについて話す機会があったんですが、大学卒業後もギャラリートークや講演など、人前で話す場面は何度もあるので、学生時代の経験が本当に活きていると感じますね。

また、在学中に先生方からいただいたアドバイスは、その後の卒業制作にもつながっていきましたし、作品をつくっている時は主観的になりがちなので、一歩引いて客観的に見る姿勢を持てるようになったのも、大学での学びの大きな成果だと思います。

本学の大学院生向けの授業で、ゲスト講師として講演する大平さん。
大学院在籍時に、指導教員だった日本画コース教授の末永敏明(すえなが?としあき)教授と。

それから山形は本当に山が迫ってくる感じというか、すごく自然と一体となって暮らしているような感覚で、後々自分の作品にインスピレーションを与えてくれました。都市圏から離れていたからこそ制作にも集中できたし、先生方とかクラスの人たちともすごく距離が近くて、大きい家族みたいな感じだったのも心地良かったですね。山形で目にしていた毎日の何気ない風景が自分の中で蓄積されて今、作品に還元されている気がします。環境が制作に与える影響というのを肌で感じましたね。

画家、アーティスト 大平由香理さん
2024年10月には、大学院の授業にゲスト講師としてお越しいただいた。

――今後挑戦してみたいことは?

大平:アメリカに行って制作したことで世界が広がりましたし、海外のギャラリーで展示することも決まりました。そうやって日本だけじゃなく他の国でも作品発表したり、また制作しに行ってみたりしたいですね。

画家、アーティスト 大平由香理さん

――それでは受験生へメッセージをお願いします

大平:「アーティストって儲からないんでしょ?」と言われることも結構ありますけど、なにがなんでも描き続けるという覚悟があればそんなことはなくて。
展覧会に出たことから派生してまた違う展覧会に呼んでもらえたり、“あの展覧会に出ている”という信頼があるからこそ声をかけてもらえたり、単純には測れないものもあったりします。

あとは、いわゆるギャラリーとか百貨店でしっかりお客さんに支えてもらって、ちゃんと次につなげていくっていうのも大切な活動だと思っています。人と違う生き方って言い訳できないし、好きなことを仕事にするといいこともありますけど大変なこともたくさんあって。

でも学生の時にはすでに「自分はこの道でやっていくんだ」という覚悟は決めてました。 卒業後は絵を辞めて就職していく人も多い中、私はそれまでやってきたことを無駄にはしたくなかったし、何より「続けたい」という思いがあったので、絵を描くこと以外考えられませんでした。受験生の皆さんにも、諦めなければアーティストや画家としてちゃんとしっかり生活していけるよ、ということを伝えたいです。
それから日本画コースの先生方は、現役作家として作品を制作し発表し続けています。 その分、説得力もありますし、生きたアドバイスがもらえることも魅力の一つではないでしょうか。

画家、アーティスト 大平由香理さん

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ワークショップを通じて参加者とコミュニケーションを図る中で遭遇した、自身では思いつかないような新しい色や形。それらを取り入れて、「私の」から「私たちの」作品へ発展させていく―。今はそうやって自身の絵をツールに、関係性や場をつくっていけるのが楽しいという大平さん。一方で、どんな時でもクオリティの高い100点のものを出し続けていくという責任と覚悟も、大平さんの作家活動を支える上でとても大切な要素になっていると感じました。

(取材:渡辺志織、入試課?須貝)

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東北芸術工科大学 広報担当
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