
企画構想学科一期生として学生時代を過ごしたゲンタ?クラークさん。広告業界で経験を積んだのち、2024年に株式会社ハイソックスを設立しました。これまでに、さまざまな業界でブランディングやプロモーションに携わっています。今回は、ゲンタさんがクロージングイベントを担当することとなったシェア型複合施設「the c」にて、ディレクターとしてクリエイティブな世界で活躍する楽しさや、企画構想学科での思い出をお聞きしました。
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小規模でも、クリエイティブの力で世界に影響を与えられる時代
――ゲンタさんは、2024年に会社を立ち上げたばかりですが、今の会社ではどのようなお仕事をされていますか?
ゲンタ?クラーク(以下、ゲンタ):クライアントから依頼をいただいて、企業や商品のブランディングやコミュニケーション戦略を考える仕事をしています。職種でいうと、プランナーとプロデューサー、クリエイティブディレクターを兼ねている、ということになりますね。
ちなみに会社としては2024年9月に一期を迎えたのですが、無事に黒字を達成できて、ひとまずはホッとしています(笑)

――元々、「いずれ独立しよう」という目標はあったのでしょうか
ゲンタ:いえ、漠然と「自分はずっと、会社員なんだろうな」と思っていました。
でも去年、クリエイティブの勉強のためにアメリカとヨーロッパに行ったときに、考えが変わったんです。
レイ?イナモトさんという世界的なクリエイティブディレクターの方が「今は、小さな会社でも世界に影響を与えるクリエイティブワークを手がけられる時代だから、大きな会社に所属することにこだわらなくてもいい」ということをおっしゃっていて。実際に、独立して大きなプロジェクトに携わっている方もたくさんいらっしゃることに気づいたので、僕も独立を決意しました。
今では「独立してよかった」と感じることのほうが多いので、僕にはこのやり方が合っているんだと思います。
――ゲンタさんが、お仕事をするうえで大切にしていることはなんですか?
ゲンタ:僕がいつも心がけているのは、目の前にいる人のやりたいことを理解したうえで、それをどう形にするか? を整理することです。そのためには打ち合わせの際に、相手の方を自分に“憑依”させるぐらい感情移入しながらお話を聞いています。そして、過去のいろいろなケースと照らし合わせて「この方は今、どういった立場に置かれているのか」「本当はこういうことがしたいんじゃないか」といったことを会話の内容から探っています。これが一番、大切であり難しいことですね……。
僕にご相談くださる方は「これをやりたい!」という熱量の高い方が多いのですが、同時に「どうしたら実現できるのか分からない」と悩まれているケースもよくあります。なので、まずは目的と手段を整理して、プロジェクトの前段にあるもの、つまり「本当にやらないといけないことは何か」を明確にしてあげることが大切なんです。
――会社員時代含め、ゲンタさんがこれまでに携わったなかで印象に残っているお仕事について教えてください
広告代理店に勤務していたときに携わった、コンドームのPR企画はすごく印象に残っています。その商品は、従来のコンドームと違って、性行為の際に女性側が感じる負担を最小限に抑える工夫がされていたんですよね。その強みを世の中に伝えるために、いろいろな手段を考えました。

「コンドームをどうやって宣伝しよう?」というのを、大の大人が10人ぐらい集まって、真剣に考えていたんです。「どこまでいったら下品で、どこまでだったら下品じゃないのか」というボーダーラインも意識しました。しかも、それを3年ぐらいにわたって、ずっと続けていたんですよ。複数人の仲間と同じことを3年間考えつづけるって、なかなかないので、ひとつのコミュニケーションを突き詰める面白さを実感しました。
あとは、前職時代に京王電鉄さんからご依頼いただいた、下北沢にある『ミカン下北※』 という商業施設のプロジェクトは僕にとってのターニングポイントの一つですね。下北沢という、知る人ぞ知るカルチャータウンの中でどのような形の商業施設が新しい価値になるのか? というのを徹底的に考えたんです。プロジェクトの開始からローンチまで、開発担当の方々と一緒に、毎日ディスカッションを重ねました。


※ミカン下北: 下北沢に位置する商業施設。再開発プロジェクトの一環として2022年に開業。下北沢特有のカルチャーや個性を尊重しつつも、新たな文化と人々が交差する場として設計されている。
結局、ただ商業施設をポンと作っても、その施設をみんなが受け入れないとうまくいかないな……とチームでたどり着いて。なので、「施設だけではなくエリア全体をブランディングしよう」ということになりました。
ミカン下北でいろいろな“実験”、つまりイベントが起きて、その文化が街全体へ染み出していく……といったイメージです。そのための具体的な施策をみんなでローンチまでとローンチしてからも、ずっと考えていたんです。すごくやりがいのあるプロジェクトでしたね。
「ここに行ったら何かが変わるかも」その気持ちを信じて、芸工大へ
――芸工大の企画構想学科を知ったきっかけを教えてください
ゲンタ:実は僕、一浪していて。予備校の先生に芸工大の存在を教えてもらって、そこで知ったんですよ。
そもそも、高校生のときは体育の先生になろうと思っていたんです。でも、高校で「こいつ一番面白いな」と思っていた友達が、地元の北海道にある大学で、芸工大の企画構想学科に近いような、クリエイティブ系の学科を受験していて。そこで企画や広告といった世界への興味が芽生えました。
元々僕は、人が喜ぶことを考えるのが大好きで。クラス全員の誕生日のサプライズを考えたりなんかしていたんですよ(笑) そういったことを仕事にできるんだったら、それを大学で勉強できるんなら、めちゃくちゃ楽しいじゃん! と思って、クリエイティブ方面に路線変更しました。

結局、現役での入学には落ちたので予備校に通うことになったんです。友達が行ったのと同じ大学を第一志望にしつつ、滑り止めとしてはみんなが行くような大学の法学部を受験するつもりでした。でもそうしたら、予備校の先生が「第二志望は普通の大学でいいの?」と気にかけてくれて、芸工大のことを教えてもらえました。そのなかで、デッサンができなくてもいい唯一の学科が当時は企画構想学科だったんですね。しかも1期生の募集だったので「入学さえできれば、なんとかなるんじゃないか」と思いました。
センター利用で芸工大の企画構想学科を受験したら、なんと合格して。親には、道内の大学の法学部に行くように言われたのですが、そこで「諦めたくない!」と思ったんです。「芸工大に行ったら、何か面白いことが起きるんじゃないか」「これまで会えなかったような人に会えるんじゃないか」という気持ちが、ふつふつと湧いてきて……。親とは一回、めちゃくちゃ喧嘩することになったのですが(笑)でも最終的には、芸工大への入学を許可してもらえました。
――実際に、芸工大の企画構想学科に入学してからはいかがでしたか?
ゲンタ:世界が広がった実感がありましたね。すばらしい出会いの連続の日々で、考え方からなにから、180度変わりました!
同級生がとにかく、変な奴らばかりで(笑) 入学前に思い描いていたように、“ここでしか出会えない”仲間がたくさんいました。もちろん教授陣も魅力的で。先生方を通じて、これまで知らなかった世界のことをたくさん知れたのは、本当にありがたかったなぁ……と、今でも思います。
――大学での経験で、特に印象に残っていることはありますか?
ゲンタ:授業後、夕方の時間に実施されていたトークセッションを聞くのがすごく楽しかったです。教授たちが、いろいろな業界で活躍している方をゲストに呼んで、アートやデザインの世界、ビジネスの世界のことを学生に向けて話してくださっていたんですよね。
ほかにも、美術科で実施している『ひじおりの灯 』というプロジェクトの報告会や、大学院のレビューなんかもよく覗いていました。これまでの人生では気にしたこともなかったような世界の話をたくさん聞けて、自分の価値基準がガラっと変わりましたね。
あとはやはり、先生方との交流もとても印象に残っています。授業が終わったらいつも研究室に行って、夜遅くまで遊んでもらっていました(笑) 先生方との会話を通じて「企画の最前線で働いている人って、持っている情報量がすごいんだなぁ」と実感したものです。

そして、授業やトークセッションのゲストはみなさん教授陣のお知り合いなんですけど、ゲストの方がいらっしゃったら、必ず学生を飲み会に誘ってくださっていたんですよ。僕ももちろん参加して、そこでいろいろな話を聞かせていただきました。世界的IT企業やハイブランドの副社長、大手エンタメ会社の事業トップの方 など……。学生時代にそんな地位の方々と、居酒屋でお話ができたなんて、今思うとすごすぎますよね(笑)
飲み会では企画やクリエイティブのことを話すだけでなく、人生の大先輩であるみなさんとの会話を通じて「ここまでは踏み込んでも大丈夫なんだ」「こういうことは、言ったら失礼になるんだ」というバランス感覚も学ばせていただきました。今、社会に出てクライアントと仕事をするうえで、当時培ったこの感覚にはとても助けられています。
――クリエイティブディレクターとしての、今後の展望をお聞かせください
ゲンタ:今は、いただいたご相談に対して僕ができるアプローチをする“クライアントワーク”が主軸ですが、将来的には僕自身のアイディアをビジネスにしたいと思っています。自分のアイディアをお金にする、ということですね。もちろん、いろいろな機会をいただくこともすごく嬉しいですが、やっぱり自分が一から生み出したものがビジネスになるのが一番幸せじゃないかな、と思っています。最近原宿にある銭湯のプロジェクトを通して、本当に熱量の高い事業者の方たちとお仕事をさせてもらう機会が多くて。そんなことを強く思っています。
今までやってきたような、お仕事やプロジェクトも並行しながら、自分の事業を何個も作るのが目標です。3年以内には実現したいですね。


――最後に、芸工大の企画構想学科に興味のある受験生へメッセージをお願いします!
ゲンタ:世界にはまだまだ知らない職業や肩書きがあって、その先には見たことない業界が広がっていて、新鮮すぎる価値観とルールが存在します。今、目の前にある価値基準を窮屈に感じている人、そんな世界に風穴をあけたい! という気持ちがある人は、クリエイティブな世界に触れてみてもいいかもしれません。
特に、誰かを喜ばせたり、楽しませたりすることが好きな人には、芸工大の企画構想学科はすごく向いていると思います!

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受験生時代に「諦めたくない」というご自身の気持ちを見つめ、クリエイティブな世界に足を踏み入れたゲンタさん。そのときの大きな決断によって、今のゲンタさんの日々が形作られていると感じました。今は、将来の“クリエイティブな事業”に向けて種を仕込んでいる最中なのだそうです。ゲンタさんが蒔いた種が成長して花が咲くのは、もしかしたらもうすぐかもしれません。
(撮影:永峰拓也、取材:城下透子、入試課?須貝)

東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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