
【2/22から開催?見どころ紹介】DOUBLE ANNUAL 2025 「アニュラスのじゃぶじゃぶ池/omnium-gatherum」/アート?プラクティショナー 松本妃加(文化財保存修復学科 3年)
ニュース&トピックス 2025.02.14|
#DOUBLE ANNUAL#在学生#展覧会2025年2月22日(土)から2025年3月2日(日)の9日間、東京?国立新美術館で本学と京都芸術大学合同の「DOUBLE ANNUAL 2025」が開催される。本展に先駆け、2024年12月10日(火)から12月20日(金)にかけた11日間、東北芸術工科大学で「DOUBLE ANNUAL 2025 プレビュー展」が開催された。
4月の公募で京都芸術大学?東北芸術工科大学(以下芸工大)の全学部生と大学院生を対象に募集?選抜を実施した。そして昨年度よりも多い89組106名の中から一次の書類選考、二次の面接を経て選ばれた本学の5組6名の学生が本館7階のTHE TOPにて4月からの成果を発表した。
本年度は、新たなキュレーターとして堤拓也氏(担当:京都芸術大学)と慶野結香氏(担当:東北芸術工科大学)の2人を迎え、さらに刷新された内容で進行する。堤氏は京都芸術大学の卒業生で、在学中にウルトラファクトリー※が完成するという重要な時期を経験し、現在は滋賀県の共同スタジオ「山中suplex」の共同プログラム?ディレクターを務める。慶野氏は東京大学東京大学大学院学際情報学府で修士課程を修了後、JICAの青年海外協力隊としてサモア国立博物館に学芸員として赴任した経歴を持つ。現在は青森公立大学国際芸術センター青森(ACAC)に所属している。2人の新たなキュレーターを向かい入れ、「DOUBLE ANNUAL」の大きな転換期と言える。
※京都芸術大学の全学生が利用できる造形技術支援工房
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今年度の募集テーマは「omnium-gatherum(オムニウム?ギャザラム)」である。混合物、寄せ集め、まぜこぜなどを意味する。作家たちはそれに対応したプランを1次、2次選考で提示。ポストパンデミックを経て、社会はより一層グローバルな状況へと進んでいる。情報が溢れる現代で個人が置かれた状況、またその状況をどう捉えているのか、「omnium-gatherum」という募集テーマは当人たちを考えさせ、観客たちまでも取り込んでいく。そしてプレビュー展では選ばれた作家たちの作品や制作過程を踏まえ、展覧会タイトルとして「アニュラスのじゃぶじゃぶ池/omnium-gatherum」が設定された。ラテン語で有機的な「輪」や「環」を示す「アニュラス」と、公園にある浅い水遊び場である「じゃぶじゃぶ池」、そして募集テーマ「omnium-gatherum」から、無限の可能性に開かれた円環状の公共空間に、多様な表現や考え方を持っている人々が集い、混ざり合いながら戯れるイメージが込められている。このプレビュー展では、7月に行われたキックオフ?ミーティングより制作に取り組んできた作家が、紆余曲折を経て各々の成果を発表した。またプレビュー展は2月に予定されている東京?国立新美術館での展示に向けた、ブラッシュアップの場として、実験的な要素も含んでいる。以下は、作家個人に焦点を当てた紹介である。
[鈴木藤成]
鈴木藤成の作品は、フィールドワークで譲り受けたブルーシート3点、聞き取り資料?映像、絵画作品数展から構成される。これまでブルーシートを加工したり、絵画へと昇華させたりしてきたが、プレビュー展ではブルーシートが持つ現場の無意識の痕跡に着目し、それを中心に作品を展開する。また、単にブルーシートを絵画的に展示するだけでなく、鈴木がフィールドワークを通じて得た地域に対する感情、現場の空気感を絵画で表現た。また公民館のような空間を演出し、来場者が資料に自然と手を伸ばせる場を演出した。会場ではブルーシートが観客の前に天井から吊るされ、観客の前に悠然と現れる。「THE TOP」という会場には明確な仕切りこそないが、鈴木が展開する空間の入り口として象徴的に区切られ、薄暗い中でスポットライトを浴びたブルーシートは神聖さを際立たせていた。それは、内側にあるものを守るようにも、外界と隔てるためのもののようにも見える。その意味や印象は、見る者の立場によって変わるだろう。またその先へ進むと、絵画作品が並び、さらに奥に進むと公民館を思わせる空間が広がる。そこにある資料や作品を通じて、鈴木の視点から地方集落の問題が浮かび上がる。そこで観客は、傍観者ではなく自らもその問題の当事者であったことを意識する。

2024年12月プレビュー展 展示作品「ローカルレジリエンス」(2024)

[篠優輝]
本作は、伝統こけしに関わる人々への取材?研究を基に制作されている。フィールドノートと、絵画作品とで展示を構成し、その二つは対応関係を示唆する。篠は幼少期から伝統こけしに関心を持ち、学部時代から現在に至るまで、こけしを作品のモチーフとして扱ってきた。これまで篠が追い続けてきた伝統と、それを踏まえた新しいこけし界をリアルな視点で捉えている。プレビュー展では、フィールドノートやこけしに関する収集物と絵画を対で展示し、それらの関係性を鑑賞できる構成となっていた。展示空間の中央にはこけしが置かれ、篠のフィールドワークとアウトプットされた絵画の軸が、こけしであることが読み取れる。篠の制作は、こけしを中心に研究性も兼ね備えており、インプットとアウトプットを重ねることで、こけしに対する解像度とリアリティを追求する基盤となっている。また、本作の見どころの一つは、篠がこけしやその周囲の環境をどのように考えているのか、その視点の変遷がフィールドワークを通じて垣間見える点である。本展では構図を改良し、これまで追い続けてきた篠自身を作品に組み込む。新しい試みとなるが、自身がどう関わってきたのかを示し、成長も感じられる作品となるだろう。

2024年12月プレビュー展 展示作品「こけしの旅」

[栗原巳侑]
栗原巳侑はストーンテープセオリー理論を応用し、作品を展開する。本作では砂鉄を用い、絵画作品と床面のラインを展示した。この砂鉄は本展が開催される国立新美術館の砂鉄を使用している。砂鉄をよく観察すると黒い砂鉄、赤茶色の砂鉄が見受けられる。後者の砂鉄が国立新美術館の砂鉄である。その土地の歴史を物理的に内包しているといえる。絵画作品では、かつて美術館の土地に存在した陸軍第一師団歩兵第三連隊兵舎全体を表現し、床面のラインでは本展で使用する展示室の図面を再現した。今回、陸軍兵舎をモチーフに取り上げた理由の一つに陸軍兵舎が過去に関東大震災後の震災復興建築、戦後を乗り越えた希望の建物として扱われていたことである。福島で育った栗原は、陸軍兵舎が戦時的側面だけでは無いことに着目した。過去と現在、東京と山形という離れた土地を、ストーンテープセオリーが持つ霊魂(場に刻まれた記憶を呼び起こす力) によってつなぎ、不可視の歴史を可視化する試みである。栗原の作品は、過去に存在した建物を伝えるとともに痕跡を現代に蘇らせる。しかし、それは単に過去を振り返るものではない。兵舎がかつて存在し、今は過去のものとなったように、私たち自身もいずれ過去のものとなる。残された軌跡がどのように未来へ影響を与えるのか、栗原はその問いを、作品を通して観客に投げかける。

2024年12月プレビュー展 展示作品「Ghost of architecture」

[Yatsude Jun]
本作品は、粘土で制作したクレイアニメーションと朗読劇、歌劇を融合させた約20分の映像作品で構成されている。プレビュー展では、一部を切り出した約1分のティザー映像が公開された。また、世界観を表現したオブジェも展示され、全体として独特な雰囲気を伝えている。物語は、人間を操る能力を持つ「馬」と、それに関わる人々を描く。しかし、ここでいう「馬」とは、一般的に想像される哺乳類の馬ではなく、「乗り物」という意味合いが強い。馬は古くから家畜として飼われると同時にで、乗り物として利用されてきた。さらに、日本やヨーロッパの神話においても、馬は神使としてしばしば登場する。本作では、その「乗り物」である「馬」が、人間を支配する立場として描かれる。Yatsude Junは共依存の関係を「馬」と「人間」の関係性に重ね合わせ、支配構造の要素を通じて、人間同士の関係性や社会構造を象徴している。物語全体には、普遍的でありながら、現代にも通じる教訓や警告が込められている。本展では、映像がさらにブラッシュアップされ、展示構成も一新される。また、オブジェやモニターフレームが加わり、Yatsude Junの世界観がより深く展開される。そして、物語の最終場面は絵画作品によって表現される予定であり、本展で初公開となるため、特に注目すべき点である。
※Yatsude Junは都合により出展を取りやめることとなりました

2024年12月プレビュー展 展示作品「馬の背」

[Modern Angels]
Modern Angelsは「いきること?さまざまなものにあたること?ばったりとでくわすこと」をコンセプトに、「いき あたり ばったり」をテーマに活動を展開している。本展示への参加が決定したことを機に、東北芸術工科大学のある山形、京都芸術大学のある京都、そしてその中継地点となる東京を巡る旅を行った。展示では「衣?食?住」の3つのカテゴリーに分類し、包括的なインスタレーションとして空間に展開する。プレビュー展では彼らの展示エリアを不特定多数の人々が集う「広場」として機能させ、作品を通じて鑑賞者との関わりを試た。そして本展では、展示構成をさらに発展させ、「広場」としての機能をより強化する。彼らの作品より強化する、芸術が生み出す人々のコミュニケーションの可能性を感じ取ることができる。

2024年12月プレビュー展 展示作品「いきあたりばったりキャンプ」

プレビュー展までの半年余りの制作期間は長いようで短い期間であった。それぞれの作家が本展を見据えた、フィールドワークの実施や制作を進める中で、イレギュラーな事態による変更点や見直しを重ねてきた。どの作家も作開始時からプレビュー展までに作品が全く変化していない者はおらず、その過程を知ることで、各作家が成長を遂げていることがよくわかる。またプレビュー展は「THE TOP」という本展とは異なる会場で行われた。限られた条件の中で、それぞれの作家が工夫を凝らし、空間に適した展示を試みた。実現は現場での、キューレーターや担当教員との対話を重ね成し得たものである。その結果「プレビュー」という名にふさわしく、本展に向けて必要や問題点を再確認できる有意義な展示であった。
12月10日(火)に開催された公開講評会では、キュレーターの慶野結香氏、堤拓也氏、そしてゲストとして美術家の青野文昭氏を迎え、講評をいただいた。公開講評ということもあり、学内外から多くの来場者が訪れた。忌憚のない意見を受け、改めて改善点に気づいた者、自信を深めた者、新たな視点を得た者など、さまざま気づきがあった。しかし、いずれにせよ有意義な講評会になったのは間違いなく、本展ではさらにブラッシュアップされたより完成度の高い作品が並ぶことと思われる。

左から)慶野結香さん、堤拓也さん、青野文昭さん
また美術展をつくる一連のプロセスの一部を担うアート?プラクティショナーによって作成されたキュレータージャーナルにも注目である。プレビュー展では、2号設置していたが、お手に取られただろうか。現在は学内の数カ所に設置している。第1号では、作家に焦点を当て、会場だけでは見えない作家、制作の裏側について紹介している。第2号では、今年度から実施された合宿について取り上げた。今後も発行していく予定であり、機会があればぜひお手にとっていただきたい。またデジタル版の発行も準備中である。いずれも作品理解を深め、展覧会を楽しめる一冊となっている。またジャーナル以外にも、イベントとしてアーティストトークを開催した。これは講評とは異なり、より自由でラフな対話の場となった。こちらは日本画コース小金沢智先生をお招きし制作過程や作品について詳しく話す機会となった(小金沢先生によるレビュー記事はこちら)。本展でも、アート?プラクティショナーによるイベントが企画されているため、ぜひ会場に来た際はご覧いただきたい。
そして、プレビュー展を通して、作家とアート?プラクティショナーそれぞれが思考を続けることで、「アートになにができるのか」と問いかけながら展覧会をつくりあげる。その過程自体が、実践的な芸術教育プログラムの一環として機能していたと言える。

アート?プラクティショナーらで作成したキュレータージャーナル
※「Gatherum News」Vol.1 は、PDF版でも ご覧いただけます
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本展は、東京?国立新美術館で2025年2月22日(土)から2025年3月2日(日)の9日間開催される。プレビュー展からさらにブラッシュアップされた展示となり、環境の違いと相まって、プレビュー展とはまた異なる魅力を持つ展示となる。本展の大きな特徴のひとつは、本学と京都芸術大学による合同展示であることだ。これまで両大学は、本展に向けて、連携を深めてきた。実際に両大学が対面するのは合宿以来となり、夏に出会った頃と比べて、作家自身も作品も大きく変化したことだろう。両大学が、お互いの中間地点である東京で交わることは大きな意味がある。この出会いを通じて無限の可能性が生まれ、それは絶え間なく創造の源となり続ける。それこそが、キュレーターが本展のタイトルに込めた意味の一つではないだろうか。さらに、この創造は作家同士に留まらず、展覧会に訪れる人々にも広がる。展示空間は、作品同士の境界が融解していくような「広場」として機能するだろう。そして、その境が自身の境とも融解していくような感覚が生まれるはずである。鑑賞者の境が曖昧になった時、展覧会は完成する。
(文:アート?プラクティショナー 松本妃加、写真:草彅裕、アート?プラクティショナー 佐藤弘花、松本妃加)
Information
東北芸術工科大学と姉妹校?京都芸術大学との学内選抜展「DOUBLE ANNUAL」は、両大学の学部生と院生を対象に、国立新美術館で展開したい作品プランを募集し、今年度は89組の応募者のなかから、ディレクターによる審査を経て11組が選ばれました。
現役のキュレーター(東北芸術工科大学:慶野結香、京都芸術大学:堤拓也)から助言を受けながら作品を発展させ、アートプラクティショナー(展覧会全体をつくるために関わる人々)とも協働し、「アートになにができるのか」と問いかけながら展覧会をつくりあげる、実践的な芸術教育プログラムの成果をご覧いただけます。
DOUBLE ANNUAL2025「アニュラスのじゃぶじゃぶ池/omnium-gatherum」
会期:2025年2月22日(土)~3月2日(日)10:00~18:00 入場無料
※休館日2月25日(火) 、最終日の観覧締切時間は17:30会場:国立新美術館3F 展示室3A(東京都港区六本木7丁目22-2)
主催:京都芸術大学
協力:東北芸術工科大学
展覧会公式サイト:https://www.kyoto-art.ac.jp/doubleannual2025/
関連動画:
【東北芸術工科大学】2025.01.17「週刊 TUAD NEWS」 DOUBLE ANNUAL 2025 SP

東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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